水界の妖怪である河童にまつわる岩石の伝説。
人や馬を河水の長子に引き込んでいたずらをしたり、相撲をとろうとしたり、また託証文をしたためたりしたというもの。川子石(かわこいし)・川太郎石(かわたろういし)・ガラッパ石・ヒョウスエ石・エンコウ石などとも呼ばれる。
春に山の神が水脈を伝わって里に降りて来て田の神となり、秋には山にまいもどり山の神となるという信仰伝承に似て、河童も春は里に、秋に山に行くと信じられていたが、その中継基地が河童石と考えられる。ために、いわば精霊の拠る台座として祭祀の対象にも、また常人の近づくことを許されぬ禁忌の対象にもなっていた。
いわゆる河童駒引譚として語られるものに、大分県南海郡野津町の河童石がある。河の中に大岩があるが、作男がその近くで牛や馬を洗っていると、水中から手がでて尻尾を引っぱる。何かと思って力まかせにその手をつかむと、スポッと抜けた。その晩、夢に河童がでてきて昼間の詫びをいれ、腕を返してくれと頼む。その礼として川魚を岩の上に置いておくという。作男は哀れに思い承知する。翌朝、岩のところに行くと川魚がたくさん置いてあった。以来、その岩の上で遊んでいた子供が足をすべらせて水中に落ち、多量の水を飲んで病気になってしまったが、その岩にキュウリなどを供えて祭ったら全快したとも伝える。
三重県志摩郡志摩町のこぼし石は、河童が馬に蹴られて頭上の水をこぼして力を失ったので、寺の住持に頼んで水を入れてもらい、お礼に大石2個を奉納した。そしてその石が朽ちるまで村人を害さないと誓ったという。その石は今も正月11に祭祀しているが、水難除けのご利益があると伝える。
和歌山県田辺市富田のゴウラ石の伝説は、昔、河童が水中から馬を引いたので、生け捕って帰った。カッパは命ごいをして川岸に煎豆を撒いて、それが生えるまでここに来ないと誓ったというものである。
熊本県天草郡牛深町(現牛深市)の海岸の大石は、いたずらをした河童を哀れに思って許したところ、そのお礼に沖合から運び上げたものといい、その上に小石を投げ、うまく乗ると、歩く時につまづかないなどという。