河童が馬を水中にひき入れるという伝承。
 広く日本各地で採取される。その大方は失敗譚で、逆に馬に引きずられたところを人間にみつかって捕えられたり、腕をとられたりする。以後いたずらをしないと約束して詫証文を書いたり、命を助けてもらった礼にと魚を贈ってきたりしたと伝え、その証文が残っている場合もある。また腕を返してもらう際には接骨薬・血止め薬などの秘伝を伝授する例が多く、家伝薬の由来譚として広く伝えられている。
 この伝承中、多くは、馬が水辺の牧に野飼されているところを河童にいたずらされている。河童は水神の零落したひとつの姿と考えられており、各地の伝承には馬と水神との密接なつながりが指摘されている。そうした点を考え合わせて、柳田国男、石田英一郎らは、河童駒引き譚には駿馬が水中から出現するという思想、水辺に牧馬を放して竜または水神の胤を得ようとする俗信、さらには古く馬を水神に供えた儀式のおもかげがうかがえるのではないかと考察している。
 また、猿を厩の守護神とする信仰は古くから行なわれ、猿駒引きの図柄の絵馬・守護符、駒引き銭という絵銭から伺い知ることができる。厩馬安全の祈祷に厩で猿を舞わせる猿引き(猿回し)という職業も生み出されている。
 一方、河童は猿と深いつながりがあると考えられる。中国・四国では河童をエンコ・エンコウ(猿侯)とよび、九州では河童に出会った人が猿に近いイメージを報告している。河童と猿とは兄弟分だという一方、両者は仇敵で河童の災を避けるために猿を飼うとも伝える。
 いずれにせよ、河童駒引きと猿駒引きとは互いに深く関連しているといえよう。各地に「河童松」「河童石」「河太郎渡」「えんこう淵」などといった河童にまつわる名称や伝説が残っており、「河童聟入」「水と神の文使い」などの昔話にも登場している。