「蛇聟入・水乞型」と同じ話であるが、蛇でなく河童であるところに注目すべき異類婚姻譚。
架空の妖怪である河童は本来水の神の使い、あるいは水神そのものとして信仰され、田に水をもたらすことはごく自然であったが、本話は「猿聟入」とともに「蛇聟入」の強い影響を受けたものの、あるいは変形かと思われる。
たとえば、ある日爺さんが田が干いているので、水をかけてくれた者に3人娘の1人を嫁にやると独言する。河童がそれを聞き、田に水をかける。爺さんが娘たちに相談したところ、姉2人は断わり、末娘が嫁に行くことを承諾する。末娘は嫁入道具にヒョウタンを持って行くが、河童はそのヒョウタンを沈めることができないためにその末娘を嫁にすることを断念する(あるいは死ぬ)という話。
『日本昔話集成』では九州以南の採集報告に限られているが、その後の調査などによって、広島・島根・京都・新潟・福島・岩手などで報告例があり、採集話数は少ないけれども(全部で15話)、全国的な分布が想定できよう。
ほとんどの報告例は上述の例話と大同小異であるが、島根県那賀郡の報告例では、発端が、ある母親が橋の上から子供に小便をさせようとしたが、なかなか子供がしないので、「しないと河童にやる」と言ったところ、その子供が大きくなった頃、河童が嫁にもらいに来たとなっている。
また同県箙川郡にある川床神社の由来として語られたものは、ある猟師の娘のところへ毎晩通って来る男があったが、不思議に思って鉄砲で撃ってみると、その男の正体は年を経た大きなカワウソであったという話である。
この2例以外は全て「蛇聟入」の水乞型(どれもヒョウタンを持って嫁入りする)である。いずれにせよ河童の伝承が全国的に分布しているのに比較して、本話の伝承はやや希薄である。